私達の行く先は天ではなかった。
第弐話 別火寿希の場合④
「……き…! ひ……き…! 寿希…!」気がつくと、そこはいつもの真っ白な病室だった。
けれど状況はいつも通りではなくて、病室には自分の心電図の音が響いていた。
そして何より、お姉ちゃんが目を腫らして泣いていた。
僕は自力じゃ病院に戻れなかったんだってことを悟った。
「寿希! 起きたのか!? ここがどこかわかるか!?」
「うん…おね……ちゃ…ん…ごめん、ね……」
掠れてしまった声で僕はお姉ちゃんに謝罪する。
僕はなんであんな真似をしたのかさえももうよく覚えていなかった。あるのは強い後悔と罪悪感。それだけだった。
「……」
しばらくの間、僕の手をぎゅっと握りしめながら啜り泣くお姉ちゃんの声だけが病室に響いた。
そうした中、お姉ちゃんの手を握り返そうとして僕はあることに気が付いた。
「あれ、僕の、腕……?」
両方の肩から下が動かない。動かそうとしても、反応しない。ピクリとも動いてくれない。それはまるで先程の車椅子みたいに……。
「ねえ、お姉ちゃん…看護、師さんに、伝えてほしいの……お願い」
僕はお姉ちゃんに手足が動かないこと、それから声も少しずつしか発せないことを伝えた。そうしてお姉ちゃんは黙って頷いた後、ナースステーションへと駆けて行った。
結果的にお姉ちゃんたちに悪いことしちゃったな……。
空回りしてばっかりで僕は……。
白い天井を見上げたまま、僕は再びぽつりと謝罪の言葉を呟いた。
その時だった。
「いいやむしろあんたは大変よろし~わ! 誇っていいわよ!」
そんなはっちゃけた声が白い天井のもっと上の方から聞こえてきたのだった。
別火寿希の場合④
2023/02/16 up