私達の行く先は天ではなかった。
第伍話 ミーティア・ファウストの場合④
雪も降っているし、期日には時間があるし。丘の麓の業者さんまで布を卸しに行くのは明日でもいい気がします。そう考え、私は昔ながらの公衆電話に出向き、十円を入れ、業者へ「明日届けに参ります」と連絡を入れます。ふぅ、白い息があの恩返しの日を思い起こさせますね。
いけない。時計を見ると、もう昼過ぎを回っていました。
お姉様を呼びに行かないと。
私は急いで家に戻ります。店の前には既に数人お客様が並んでいらっしゃいます。
私としたことが、相当機織りに夢中になっていたみたいです。
昼ごはんはこの際無しでも致し方ありません。はぁ……本当は、占い業なんてやって欲しくなくて、一緒に機織りして欲しいのですけど……。
「お姉様! 遅刻でございます!
着付け手伝いますから、急いで表に出てください!」
私はぶつぶつと何かが聞こえてくるふすまを勝手に開けます。
「……! ミーティア! 勝手に入るなって言ったじゃないって……え?」
お姉様の赤くおめでたい色のうねった短髪を直しながら、お姉様に歯磨きをさせます。
それから、私達の匂いの染み付いた花柄の和服に矢絣柄の和風ポンチョを着せます。
最後に私とは正反対の橙色の髪飾りに橙色のリボンを付ければ完成です。
この雪の中待たせてしまったとあっては、私達ファウスト家のイメージダウンに繋がりかねませんから。
だらしないお姉様を見られるのは私だけ。お姉様は表では素敵で居てくれないと困りますもの。
「お客様、大変お待たせ致しました。我が姉、コメート・ファウストがこれから個々に人生の道標を授けます。是非お楽しみくださいませ」
表に出て、決まり文句の台詞を並べ、私は姉の後ろにお邪魔することにします。
人間の皆様は日本人顔の私達の名前を本名だとは思っていませんし、実際に本名ではありませんが、私達魔法の民としてのちゃんとした名前なのです。名前を言うと胡散臭い顔で見られるのが不満で仕方ありません。
私は密かに髪を抜き、その青い髪を雪の上にそっと落としました。
そのような中で、ふたつ隣の町である卯勝市からわざわざ来てくださる常連の客がいらっしゃいます。前に姓名判断で名前をちらっと見たのですが、十代の本村さんという背の高い女性です。
……若いのにどこからそんな占いにかけるお金があるのかは不明ですが、お姉様に依存している節があるらしく、週に一度はこのように通ってくださいます。
……お姉様は、大変楽しそうにお話をなさいます。この女に対しても、楽しそうに話します。最近は私と話しても、気だるげでやる気がないのに、この女には昔と同じようにハキハキと話すのです。
私は本当に必要なのでしょうか。そのようなことを考えてしまった私は後ろから嫉妬を抱え、更に毛を数本抜きました。
そして私は部屋に戻り、一つの文章を綴りました。
ミーティア・ファウストの場合④
2023/02/16 up