私達の行く先は天ではなかった。
第肆話 レンの場合・外伝
人間みたいになれたのが楽しくって、わたしとあいかちゃんは人間についての色んなことを教えてもらいながら夜更かしをしてたの。そしたら、玄関からガチャガチャと音が鳴った。
「な、なに……?」
わたしがびっくりしてあいかちゃんに聞くと、
「パパとママが帰って来たんだよ、事前にれんちゃんの事は連絡入れてあるから大丈夫」
って返ってきた。そっか、あいかちゃんも人間だからパパちゃんとママちゃんがいるんだね。
わたしたちは玄関に駆けていって、お出迎えをした。
「ただいま、愛華。君がれんちゃんかな?」
「おかえりパパちゃんママちゃん! うん、わたしね、煮雪れん!
レモンのことなら任せてね!」
わたしは友情の証のレモンをぱっと生み出して、あいかちゃんの親に渡す。
「これはこれは……あっはは、本当に妖精さんなんだね、よろしく頼むよ」
初めての普通の人間は、わたしを受け入れてくれた。
そうして人間堕ち妖精として初めて寝てる時、その妖精はやってきた。
「起きてくれ起きてくれ、レモンの妖精!」
「ん、なぁに? だれ……?」
そこにいたのは知らない妖精さん。そんな子がわたしに一体何の用だろう?
「わが名はパーシモ。柿の妖精だ。こんな時間にすまんな。
同居人のおなごは起こさんようにするから、少し話を聞かせてくれんかね」
「ん~、ちょっと待っててねぇ」
わたしは伸びをする。それからリビングに出て、電気を付けて柿の妖精さんと話をすることにした。
「おぬし、人間堕ちが禁じられているのは知っているだろう? 何故人間堕ちをした?」
「なんでって…能力持ちさんを始めとする人間さんと対等にお話してみたかったから。
あとは、高カーストがいじめるからだよ」
ふあ~あ。わたしはあくびをしながら素のままに答えた。
「なんと、それは重要な動機だな。われも実は高カーストなのだが……それについては謝罪しよう。われの旧友のピチもかなり過激であったしな」
「もう飛べないから高カースト区域に入れないし、どうでもいいや~」
詳しいことはもう覚えてないけど、なんだかいっぱいおしゃべりした気がする。
わたしは聞くだけ聞いていなくなった柿の妖精さんに手を振って、再びあいかちゃんのいるベッドに戻った。
翌日、約束通り昼休みに図書室を訪れると浮いていないレン(れん?)がそこにいた。
「……で、なんでこうなった訳?」
「ごめんなさい霊音さん……」
聞くに、本村の両親との件で調子に乗ったらしい。
レン改め煮雪れんはなんと、「本村の制服を着て学校に来た」。普通の人間に受け入れられたことがそんなに嬉しかったらしい。
私たちの学校は選択科目がとにかく多い。大学みたいなものを想像してもらえればわかりやすいか。
だからこそ、一人増えても大してバレない気がする……にしてもだ。
「金髪に赤いベレー帽かぶった羽つきの女の子は流石に目立つでしょうよ……」
こいつは羽だけでは飽き足らず、本村の家にあったらしい赤いベレー帽までもかぶってきた。
どれだけ目立ちたがりなのか……。
「それなんですけど、私が説明したら先生たちはれんちゃんを"イタい子"と思いながらも受け入れてくれましたよ」
「えぇ……」
なんなんだこの学校は。あまりにも受け皿が広すぎるのではなかろうか。
私立校、恐るべしである。いや、防犯的にどうなのかしら?
「ねぇねぇ、れいねちゃんも勉強教えてくれる?」
「いや……私はバイト忙しいから……」
私はあまりのことに苦笑いしながらこの元妖精のお願いを断る。
あーあ、どうしてこうなっちゃったのかしら、私は普通に生きたかっただけなのに。
能力持ちってこういう運命なのかしら、嫌だなぁ。もっと普通に生まれていれば、こうはならなかったのかもしれない。
明日は絶対学校行かずに引きこもっていようっと。私はそう決心した。
レンの場合・外伝
2020/05/11 up
2022/09/20 修正