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希死意無ハウス

多分絵とかクソSSとか作る。

私達の行く先は天ではなかった。

第肆話 レンの場合・前編⑥/h3> 「それで、私も妖精やめるのっていうのが気になってたんですが……どういうことですか?
まさか出鱈目なことを咄嗟に……?」
ふと、あいかちゃんはわたしが今いっちばん聞いて欲しかったことを尋ねてきた。
さっすがあいかちゃん。いっぱい本読んでるだけあって天才だね!
「ううん、わたしね、人間堕ちしたいの!
人間さんにはなれないけど、人間さんにとっても近づけるのよ?」

わたしはわたしが思う人間堕ちの全部をセツメーした。
あいかちゃんはずっとうんうんと聞いてくれてたし、れいねちゃんも最初はキョーミなさそうだったけど次第に色々聞いてくるようになった。あぁ、わたしってセツメーじょうずかも?
「ほえ~、なんだか妖精さんって不思議な生き物なんですね、ちょっとだけ現実感が増した気がします」
「そうね、こんなのは夢であってほしかったわ」
「えへへ~、人間さんほどじゃないよぉ」
「少なくとも私は褒めてないんだけど」
人間堕ちを受け入れてくれる人間さん達に囲まれてうきうきした気持ちでいると、れいねちゃんがあることを訊ねてきた。
「はぁ……で、人間堕ちとやらをしたとしてもそのドレスは少々目立ちすぎるんじゃないかしら?金髪はいいとしても」
「ふぇ? 考えたことなかった。確かに下界用の服は必要かも?
そういうの遠足みたいでわくわくするね~!」
そーだそーだ、人間さんはこんなふわふわした服着てる人あんまりいないもんね。
ずっと人間さんみたいな服着てみたかったのを忘れてた、えへへ。
「ああ、それなら私のお気に入りのTシャツをあげましょう!」
「え~れいねちゃんがさっきダサいみたいなこと言ってなかった?」
「言ってたし言ったわ。貴女の趣味に任せるのは不安がある」
「なっ……」
わかりました、わかりましたよと言いながら立ち上がるあいかちゃんはわたしを指さした。
「では本村家の名に懸けて素敵な服を買ってあげましょう!
私は霊音さんの言う通り制服買うような家庭ですから制服だって貸しますとも!
空いている部屋だってありますから両親に頼み込んで衣食住の全部を保障してさしあげます!
な、なのでこれから今後私のセンスを馬鹿にしないことです! いいですね!?
霊音さんもですよ!」
勢いに気圧されるれいねちゃん。目をキラキラさせるわたし。
えっと、えっと、ってことは……もしかして。
「かわいいお洋服、着れるの?」
「はい! 放課後買いに行きましょう! おうちに帰るまでが妖精さんですよ~」
……おうちに帰るまで人間堕ちできないのかぁ。
ちぇっ、あいかちゃんはちょっとだけいじわるかも。
その時、学校のチャイムが鳴った。
わたしだって、これが鳴ったら教室に行かなきゃいけないってことくらい知ってるのよ?
「わかったー、じゃあ午後はあいかちゃんと授業受けるね。
あ、あとあいかちゃんはタメ口でいいからね~」
「じゃ、明日もここに来るから、"本村"もそれでいい?」
「え? ええもちろんです! あはは…行こ、レンちゃん……っ!」
「はいな~!」
なんでか焦ってるあいかちゃんの後ろを着いていきながら、わたしはぼんやりとストベちゃんの言葉を思い返していた。
……恨まれたって、いいんだもん。もう、知らないんだから。

退屈な授業をふたつかみっつくらい受けて眠くなっていた頃、やっと授業が終わるチャイムが鳴った。
「あ~あ! れいねちゃんのとこと全くおんなじ授業だなんて思わなかった!
退屈で退屈で飽きちゃった! つまんなーい!」
人ごみの中、あいかちゃんの前でじたばたしてみたけど、あいかちゃんは何も喋ってくれなかった。
それはきっとわたしが"妖精"だから。人間堕ちしたら無視なんてされないよね?
んもう、絶対の絶対に人間堕ちしてやるんだから。ストベちゃんなんてしーらない。

それはそれとして、初めてのショッピング!
どんな服があるのかな、人間みたいなかわいい服を着てみたいな!
今の服じゃあまりにも安っぽくて正直ヤなんだもん。
ストベちゃんくらいのかわいい服がいいなー。
あいかちゃんと一緒に学校を出て、向かうはショッピングモールよ!
……あ、またストべちゃんのこと思い出しちゃった!わたしってほんとバカ!
「わ、人いっぱいいるねあいかちゃん!」
「そうだね、このくらい人がいたらレンちゃんと話してても違和感ないかも」
「やったー!」
v わたしは人ごみをすり抜けながらを着いていく。
あれ、もしかして、人間堕ちしたら全部避けなきゃなのかなぁ。それはちょっとめんどくさいかも。
ショッピングモールなんてほとんど来たことがなかったから、わくわく。
どこを見てもお店があって、どこを見ても綺麗なモノが置いてある!
「全部買ったらどのくらいかかるのかな、あいかちゃんは全部買えるのかな?」
「うーん、わからないけど…全部は買えないよ?」
「そっかぁ」
そんな会話をしながら、着いた一つのお店。色とりどりのかわいい服がたくさん置いてある。
「ね、レンちゃん。好きなの三枚選んでいいよ」
「ホント!?」
そう言われてわたしのテンションはぐんぐん上がる。どれがいいかな?
この赤い服にしたらストベちゃんが嫉妬しちゃうかな、あ……ストベちゃん……。
ううん、ストベちゃんなんていいの、やっぱり黄色い服にする。
「あいかちゃん、この服がいいな」
わたしは黄色ベースに袖に水色のストライプが入ったワンピースを指さす。
「これ? いいけれど…今とあんまり変わらないね。
それでもいいなら良いけど……レンちゃんが言うならこれにしよっか」
「む、似てるのでもいいの!」
「あ、何か琴線に触れていたらごめんね、あとはどうする?」
わたしはうーん、と考えて、
「あいかちゃんの制服着て学校通いたいな」
って言ったの。
すると、あいかちゃんは驚いた様子だったけど、諦めたみたいに「ちょっとぶかぶかかもしれないけど……いいよ」って言ってくれた。
そうして、あいかちゃんは高そうなお財布を出して、わたしの洋服を買ってくれた。
ふふ、今日で妖精界とはバイバイできるんだなぁ。記念日にしちゃおうかな。
そうやってわたしが浮かれている時、急にわたしの元に二人の妖精がやってきた。
それは──ストベちゃんと低カーストリーダーのロンさんだった。
わたしを取り戻しに来たんだ。わたしは直感的にそれを感じた。
わたしは絶対に人間堕ちしてみせるんだから。
わたしは決意した。


レンの場合・前編⑥

2020/05/11 up
2022/09/17 修正

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