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希死意無ハウス

多分絵とかクソSSとか作る。

私達の行く先は天ではなかった。

第肆話 レンの場合・前編⑤

「朝だよ~れいねちゃん!」
今日はあいかちゃんに会う日。
だからね、れいねちゃんを起こしにれいねちゃんのいる押し入れに潜り込んできちゃった!
直接触れないとはいえ、声を張り上げたら起きるんじゃないかなって。
そのためにわたしも早起きしちゃったんだから!

「はやく準備しないとチコクしちゃうよ! ねぇ起きて~!」
「ああ、レン? ったく…私は体が老人だから朝っぱらにそんな動けないの。わかる?」
うざったらしそうな顔をするれいねちゃん。んもう……じれったいんだから。
「老人だから? それってママにいじめられて痛くて動けないだけじゃない!
もう~! じゃあゆっくりでもいいから準備してよ~!」
れいねちゃんの手を引き上げる動きをするけどれいねちゃんは全然動いてくれない。
それに加えて、「貴女にゃ痛みなんてわからんでしょうに」なんて言われちゃった!
ひどいよね、わたしだってわかるのにね!
高カーストさんに散々いじめられてきたから人間さんより痛みはわかるもん。
「わかんないけど学校には来てよ~」
その気持ちを抑えてわたしはれいねちゃんを学校に呼ぶことをユーセンした。
わたしってエライ?我ながらソンケーしちゃうかも!
「はいはいしょうがないわね……痛ッ!」
起き上がろうとして押し入れに頭をぶつけるれいねちゃん。
そのくらいで痛がるくらいだから、ほんとはなんにも痛くないのかも?


道中、レンを無視しながらコンビニでおにぎりを買った私は、学校に着いても尚レンを無視し続けていた。
午前中、レンは隣の空いた席に座るふりをして授業を受けていたがどうにも目立っていた。
なんなら、「人間さんってこんな退屈なことを毎日やってるなんてすごい!羨ましい!」
なんて恐らくは無自覚であろう煽りまで投げかけてくる時もある
。 スルースキルにはそれなりに自信があったのだけど、こんな存在に絡まれてしまってはどうにもイライラしてしまう。
妖精って、本当になんなのかしら。
他の人に見えないとはいえ、やってることがあまりにも非常識なんじゃないかしら。
私の人生が滅茶苦茶になっていく音が聞こえる気がするわ。

昼休み、私はレンに連れられて図書室を訪れた。どうやら、あいかちゃんという奴はここで待ち構えているらしい。
私が図書室の扉を開ける前にレンは扉を"すり抜けて"いったが……なるほど、すり抜けられるのは便利かもしれない。
初めて訪れたこの学校の図書館はなんというか……埃っぽい上にカビの匂いがツンと鼻をつく。
こんなやや不衛生な場所にどんな奴がいるというのか。
いや、外見はこないだ見たから知ってるけど、私と同じ能力持ちな時点でまともな性格をしているとは思えない。
というか、なんだってそんな奴が委員長なんて目立つ行為をしているのかしら。能力持ちなら慎ましく生きていればいいのに。

「やっほ~あいかちゃん! れいねちゃんを連れてきたよ~!」
レンの甲高い声で一人の女が振り返る。途端、私の頭に"好意"が突き刺さる。
本当なら今すぐにでも能力を使ってあいつを遠ざけて逃げたいと思うほど。
それほどまでに私はこの好意が嫌いなのだろう。
「あ……あっ、あ、レンちゃん! ……と、あぁ、あなたがれいねさんなのですね!
私っ、あ、本村愛華と言います! あのっ、よろしくお願いします!
さぁさ、ここではなんですから準備室までどうぞ。
あらかじめみんな追い出しときましたから」
薄気味悪い笑みを浮かべながらペコペコと頭を下げる芋女。なんだって私に頭なんて下げるのかしら?
気持ち悪くて仕方ない。追い出したというのも考えるにただの職権濫用だろう。
「……はぁ。じゃあここに座らせてもらうわね。改めまして、私は人首霊音。
よろしく。そうそう、私は貴女のことを少しだけ知っているわ。
ま、知ってるのもここの委員長だってことくらいだけどね。
ほら、こないだ生徒総会に出てたのを見ていたわ」
「あぁ!知っててくれてたんですね!」
誰にもツッコミを入れられないよう言いたいことを早口で全て伝えると、タイミングを見計らったかのようにこの女は手を叩いて反応した。
目だって輝いているように見えるしなんだかやっぱり鬱陶しいような。帰りたくなってきた。
「私も、私もですね、数日前にレンちゃんと話してるのを見かけたんですよ!
それから~、ずっと霊音さんのことが気になっちゃってまして……!
私達、初めましてですけど気が合いますね……?」
「ええ……そうね」
……本格的にこいつの好意は嫌いかもしれない。
というか、好意も挙動不審さを抜きにしてもずっと気になっていたことがある。
「ところで貴女。その変なTシャツはなんのつもり?」
ペラッペラの白いTシャツに筆字で文字が印刷されている……本村愛華はなんとも近づいて欲しくない恰好をしていた。
「えーなんて書いてあるのー? わたしも気になる~」
コホン。妖精におだてられてオタクスイッチが入ったのか、芋女はわざとらしく咳払いをした。 「これは風林火山って書いてまして。本来は疾(はや)きこと風の如く、徐(しず)かなること林の如く、侵掠(しんりゃく)すること火の如く、動かざること山の如しという文章、スローガンみたいなものですね、になっていまして詳細な意味としましては……」
そんなこと聞いてないわよ。私はベラベラと知識をひけらかす芋女の言葉を途中で遮った。
「え、え、じゃあ『なんのつもり』っていうのは……?」
当惑している芋女。本気で言ってるわけ?それならだいぶ天然ボケしているのね……。
「センスのことを言ってるのよ、もう」
「あ、え?
あ、霊音さんって初対面の人のセンス馬鹿にしちゃうタイプなんですか?
言いましたね! 私を変だって言いましたね!?」
ごく普通のことを指摘したつもりなのだけど、どうやら何かの琴線に触れてしまったらしい。
……なんだかこの人すごくめんどくさいなぁ。そう思っていると、
「喧嘩はやめてよ二人とも~! 意地悪するとれいねちゃんにはレモンあげないよ?」
そこに更にめんどくさいのが割り込んできた。好意とか関係なく胃が痛みだしてきた気がする。
「……はいはい、悪かったわよ。私が悪かったわ。
制服買ってるのにわざわざそんなものを着てくるような人には何かしら特別なこだわりがあるんでしょうね」
「そうだよ~あいかちゃんだって他にもかわいい服あるのに~!
わたしも下界に行ったらたくさんの服着てみたいな~!
とっても羨ましいのよ?」
溜め息交じりの皮肉を込めたボールは妖精の元に飛んで行ってしまったらしい。こんな天然ボケ共に囲まれて私はどうすればいいって言うの?
……もう適当に合わせようかなぁとまで思考が飛躍する。死んでもしないけど。
「……こちらも熱くなりすぎましたね、私も悪かったですすいません。
お互いに非があったってことで。
ところでレンちゃん、本題に行きましょうよ本題!」
「本題? なによそれ」
ぱちん。私が疑問を投げかけるとレンは指を鳴らしてレモンを生成した。
「そうだったそ~だった! 私ね、二人にお友達になってほしいの!」
「そう! そうなんですよ霊音さん!
"こんなセンス"ですが是非友達になっていただければと……」
プロポーズよろしく本村は手を差し出してくる。握手すれば解決なのだろう。だが。
「友達ィ? ちょっと待ちなさいよ、レン。
私は貴女とも友達になったつもりはないわ。
それにこのタイミングはおかしくないかしら?」
私は友達なんてゴメンよ。しかもこんな訳の分からない人たちなんて。
「そ、そうですよね……急、でしたよね……私、友達とかいなくてこういう距離感わかんなくて……」
「えー、でも、れいねちゃんはレモン受け取ってくれたもの……立派なお友達だもん……そうだよね?」
「……」
どう反応していいかわからずにいると、本村は手をおずおずとしまい分かりやすく俯いた。レンでさえがっかりを誤魔化すようにレモンを手で弄んでいる。

私は二人の雰囲気に気圧されて黙るより他なかった。
幾ばくかの沈黙。
そのやや重くて気まずい空気をレンが破った。
「ね、れいねちゃん。もしね、わたしが、妖精じゃなかったら……こんな出逢い方じゃなかったら……友達になってくれた?」
好意。好意。好意が私の頭を支配する。
「急に、何? 友達になんてなるはず……」
友達なんていらない。ひっそりとこれからも能力を隠して生きる。
それだけの覚悟は私にはあるはずだ。でも、ここで断ってしまえば一生私は……。
いいえ、これはもしもの話。
「わたしが妖精だから友達になってくれないんだよね?
あいかちゃんがわたしの友達だかられいねちゃんは……。
……れいねちゃんがもしそうやって言うならわたしは妖精やめたっていいんだから!」
レンは何か思うところがあったのだろうか、レモンを握りしめて泣くとも怒るとも似つかない表情で私の頭を叩くジェスチャーをし始めた。
ああ、なんでこんなこと言われなきゃいけないのかしら。
「ねぇ、なんだって私が責められてるわけ? 第一、妖精をやめるって何よ。
御伽噺に御伽噺を重ねられてもついていけないわ。
というか友達じゃなくちゃいけないの?友達じゃなくても縁切るとは一言も、言ってないし……」
私なりに言葉を濁しながら思うことを紡いでいく。
友達ハラスメントという概念があるのなら、こいつらを訴えたい。
そのくらいには意味が分からない。
でも、天然ボケしたこいつらには何もかも通じなかった。
レンと本村は先ほどまでの雰囲気を忘れたかのように私の言葉に目を輝かせたのだから。
「さっすがれいねちゃん! "実質お友達"ら許してくれるってことね!
もう、心配しちゃった! 全くもうれいねちゃんってばツンデレなんだから~!」
「はぁ……緊張しましたよ……。ありがとうございます……。
わかります、わかりますよ、その気持ち。"実質お友達"の方がいいって人もいますよね!
私も友達って関係はまだ緊張しちゃいますから、あの、その……知り合いからよろしくお願いします!
あと、そのうち友達第二号になってくれたら嬉しいです!」
「なんでそうなるのよ……ああ、もう、いいわ。知り合いならいいわ。勝手にして」

私には拒否権がないことを今強く思い知った気がする。



レンの場合・前編⑤

2020/05/11 up
2022/09/17 修正

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