私達の行く先は天ではなかった。
第肆話 レンの場合・前編③
妖精は不老不死。あと何百年も何千年もなにかが起きない限りはきっとカースト制度は続いてく。
わたしはそんな暮らしに耐えれない。
けれど、たった一つ妖精をやめる方法があるの。
それが、「人間堕ち」。
どんなに羽ばたいても飛べなくなって、下界のモノをすり抜けられなくなって。
もちろん、妖精界は上空にあるから戻ってこれなくなっちゃう。
下界の生き物とし生きるしかなくなる、妖精としての最期のシステム。
今はダメなコトらしくて、ホントはこんなこと、しちゃいけない。
でも、でも、全部の下界の生き物からわたしのことが見えるようになるんだって!
能力持ちさんの位置感知能力だけはそのままに、能力持ちさんと対等に話すことだってできるはず。
「ねぇ、ストべちゃん」
あいかちゃんやれいねちゃんと仲良くし始めた頃、わたしはストべちゃんに人間堕ちしたいってことを伝えた。
……だけど、ストべちゃんは、よくは思ってくれないみたいだった。
「本気なの、レン? あんたがそんなこと言うなんて思ってもみなかった!」
びっくりしたのか、声を荒げたストべちゃん。ちょっとだけ、泣いてるのかな?
でも……。
「ごめんね、ストべちゃん……でも、わたし本気で人間堕ちしたいの」
伝わんなくたっていいから、人間さんとして……はできないかもしれないけど人間堕ち妖精としてわたしは頑張ってみたいの!
「……いいわ、話だけは聞いてあげる。なんでそんな馬鹿げたことをしたいのか、言ってみなさいよ」
わたしは深呼吸をしてストべちゃんの綺麗な赤い目を見つめた。
「これまでわたしたち、鶴の女の子たちや波を操る女の子に会ってきたじゃない?
わたしね、いつも下界で寂しかったんだ。
普通の人間さんには見えないからって無視されるし、能力持ちさんだってわたしたちのことを「妖精だから~」って変な目で見てきたじゃない。
でももう、人間堕ちしたら寂しくなんてないはずだよね⁉」
ストべちゃんは怒ってるみたいだった。
それでもわたしはなんとかストべちゃんに伝えておきたくて思いの丈を叫んだ。
「わたしはこの妖精界に戻ってこられなくたっていい。
高カースト区域に入っちゃっていじめられることだってなくなるんだから!
わたしはね、あいかちゃんとれいねちゃんに下界の生き物として会いに行きたいだけなの!」
でもやっぱり、返ってきた答えはあまり良いものじゃなかった。
「ハァ、あんたねぇわかってる? 人間堕ちは十年以上も前に禁じられているのよ?」
ストべちゃんは泣きそうな顔でわたしの顔を見る。
「さすがのあんたでも、人間堕ちが禁じられた経緯は知ってるでしょ?」
うん、それは……当時高カーストリーダーだった桃の妖精・ピチさんが人間堕ちした後に人間さんに酷い目に遭わされたから……。
「で、でもっ」
「あんたが同じような末路にならない保証はあるの?
あの事件から下界に干渉する妖精だってめっきり減ったのだってあんたでもわかってるでしょう?
あのロン(馬鹿)でさえ事の重さをよく理解していたわ。お花畑な頭なのはあんただけよ、レン。」
……。
「……ストべちゃんは、わたしと下界に遊びに行くの、イヤだった?」
「違う! 違う、違うのよレン!」
ストべちゃんは怒ってるのか泣いてるのかわかんないぐちゃぐちゃの顔で叫んだ。
「でも、人間堕ちするんだったらあたしはレンの友達やめるからね!
桃の妖精だって人間堕ちした時には無責任だ~ってきっと恨まれたんだわ。
だから、あたしもあんたを恨むわ。」
あんまりだった。
「ストべちゃんのバーカ!
ダメだったって、人間堕ちを止める手立てなんかないくせに!
できるもんならやってみればいいんだもん!」
ストべちゃんみたいにぐちゃぐちゃになった顔を拭って、わたしは妖精の身体のままれいねちゃんの元に向かった。
レンの場合・前編③
2020/05/11 up
2022/07/16 修正