私達の行く先は天ではなかった。
第参話 本村愛華の場合外伝
九月二十二日れいねさんに会うことができる。
朝、すこ~し私がうきうきしながら身支度を整えていると、上の方からその声は聞こえてきました。
妖精でしょうか。
「われはおぬしに興味がある。少し話を聞かせてくれないか?」
本当に家にまで現れるとは…。私は感心したようにその声を聞いていました。
──というより、
「レンちゃんじゃない……⁉ あなたは一体……」
「われのことか? われは柿の妖精のパーシモだ。ほれ、柿をくれてやろう」
……和風ドレスに身を包んだ格好をして、中華風の髪型をした、なんとも文化融合が凄まじい方がそこにいました。
話を聞くにどうやら柿の妖精みたいです。
もう何も驚くことはありませんが……妖精はフルーツをあげないと死んでしまう習性でもあるのでしょうか?
「なぁに、これは正真正銘われが生み出した柿だ。臆することはない。
それに好きで渡しているだけだから気にするでないぞ」
「はあそうですか……そして今日はどんな用ですか?」
「ふむ、おぬしが着替えている途中に来たのは謝るが、話を聞きたいのだよ」
え?言われたところで気が付きました。
私は今完全に下着姿です。私は悲鳴を上げ、流れでなんとなく柿を貰って一旦撤退して頂きました。
……なんなのでしょう、あの人(妖精?)は。
朝にはもう両親が居ないので、せっかくもらった柿を剥きつつパーシモさんと会話することにしました。
……少し気まずいですね。
「……あの、話を聞くとは言っても、何を聞きたいのでしょうか?」
「われはそなたの能力について聞きたいだけだ。そなたも朝は忙しかろう? そう時間は取らん」
私は嫌そうな顔をわざわざ作り、やけに甘い柿を頬張ります。
やけに甘い柿……?
私はあることを思い出します。私は昔、この妖精に一度会ったことがあるのではないかと。
私が能力に目覚めて間もない頃でしょうか、ぼんやりと、ツインお団子の橙髪の女性に会った気がするのです。
そこで、同じように柿を食べようとして、剥く途中で手を切り、高らかに笑われ……。
泣いて気が付いたら、もうそこにはいなかったように思います。
でも、意地でも剥いて食べた柿はとても甘くて、もう一度涙が溢れた記憶があります。
……私は、包丁捌きが上手くなっていたのですね。
そう考えると、なんだか感慨深いものがあります。
通学中もなんだかんだ話が続いてしまったので、私は気になって尋ねました。
「私達、十年くらい前に会ったこと、ありますよね?」
しかし、
「そうなのか? われは色々忙しくてな、そなたのことなど覚えておらんのだ。すまないな」
そう一蹴されました。
「そうですか……また、会えますかね?」
「あぁ、そなたは面白い能力を持っている。
われら妖精には到底出来ぬ芸当をな。われが忘れた頃にきっとまた来るさ」
ありがとうございます、私がそう会釈すると、パーシモさんはニカっと笑ってまた別の場所に飛び去っていきました。
また、会えたらいいなぁ。
そう思いながら私は自分の両頬を叩き、改めてれいねさんに想いを馳せました。
本村愛華の場合外伝
2020/05/01 up
2022/06/19 修正