Menu

希死意無ハウス

多分絵とかクソSSとか作る。

私達の行く先は天ではなかった。

第弐話 人首霊音の場合⑥

いつの間にか意識を失っていたようで、目が覚めると私はいつもの寝床(押し入れ)に寝かされていた。
失禁したはずであったが、ちゃんと下着が履き換わっていて、布団代わりのコートもきちんと身体にかかっている。
レモンが入っているであろうバッグだって枕元にきちんと置いてある。
母のこういうところは好きだ。
しかし、起き上がろうとすると昨日の痛みが背中や足に鋭い痛みが走った。
寝床である押し入れから出られるのはもう少し後になりそうだ。
今日はお母さんも仕事だろうし、学校に行かなくても問題ないだろう。
内緒でやっているバイトだって今日は入れていないはずだ。
そんなところに。
「やっほーれいねちゃん!
 大丈夫? あれから上から見てたのよ!
 痛かったでしょ~? なんてことしてくれるんだろーね!」
あのレモンをくれた妖精が……押し入れの壁をすり抜けてやって来た。
「あ、貴方……一体どこから……?」
そもそも何故私の家を知っているの?
妖精にはプライバシーという概念はないのかしら?
「わたし?
 わたしねー、妖精さんだから生き物や人が作ったものなんてすり抜けちゃうんだよ~」
思った通り、会話は通じずに好意をひたすらにぶつけられた。
私は諦めの感情を抱いた。
「大丈夫だから、どっか行ってちょうだい。」
怯えを察知されないように努めてそのように諭したが、この妖精は引き下がってくれやしなかった。
「やだやだやだ!
お友達が酷い目にあってるのに一緒にいちゃいけないなんてやだ!」
「ああ、そう。
でも、貴方妖精なんでしょう?居たところで何も変わらないじゃない。
しかもすり抜けるなんて」
もっともなことを言ったつもりだったのだが、気にも留めていないどころか聞いてもいない様子の妖精は思わぬことを口にする。
「あいかちゃんって、知ってる?
あの子に言ったらきっとあなたのことを助けてくれるよ!
だっておんなじ『能力持ち』だもん!」
「……は?」
誰だ? 記憶を辿っても、そんな人間は知らない。
というか、その前に私は人名に興味がない。
「わっかんないかな~、ほら、同じ学校の!
 白っぽい髪で……えっと、それを一本結びにした赤い眼鏡の子!」
 あれ、昨日どこかでそんな奴を見た気が……。
──図書委員長の奴かしら? いやいやいや、あり得ないな。
私のような能力を持った奴がそう何人もいてたまるか。
というか……
「今は授業中じゃないの? 人首霊音(見知らぬ人)の為に学校なんか抜け出せないわよ」
そっかぁ……。レンは思案する。このまま帰ってくれるとありがたいのだけど。
「じゃあ、明日でも学校行った時に二人を会わせてあげる!」
またこれだ。こいつはなんでも好き勝手言う。
「そうしたら、何か変わるのかしら?」
「変わるの! 変わらせるの!」
「貴女に、得はあるの?」
「わかんないけどやりたいの!」
あぁ、こいつは人外というよりただの子どもなのね。何を言っても通じない。
やりたいことをやるしか能がない、低俗な生き物。
仮にその委員長が能力持ちだとして、私に好意を抱いたら私の能力が効いてしまうかもしれない。
やはりこいつとは会わない方が良かったのかも。
だけど……断ってもこいつは何度でも私の前に来て好意をぶつけに来るだろう。
「わかった、じゃあ明日……学校に行くわ。後は任せたから」

こうして能力持ちと会うことになった私はしばらくした後、頭をぶつけつつもおもむろに押し入れを出るのだった。


人首霊音の場合⑥

2020/05/01 up
2021/03/03 修正

Menu

上へ