私達の行く先は天ではなかった。
第参話 本村愛華の場合③
結論としては、次の授業の半分も終わっていました。私はあまり体が強くないのと、学校が物凄く適当なのが合わさって保健室に行っていることになっていたようです。
それで良いんでしょうか、この学校。
ああ、そういえば今日は六限に新図書委員長として初めての仕事があるんです。
端的に言えば、生徒総会でスピーチをしなくてはなりません。
授業前に改めて台本に目を通しておくはずだったのに、あまりに非日常な体験で先まですっかり頭から抜けていたようです。
せっかく今日のために珍しく制服で決めてきたのに、恥をかくわけにはいきません。
そんなわけで、少々慌てていた私は五限の残りの時間は授業をBGMに原稿に目を通すことにしました。
清き良き生徒でいられず、先生に申し訳ない気持ちも残ります。
スピーチは散々な結果に終わりました。
後に私がこの日記帳を撫でるときには、あまり良い記憶が蘇らないと思います。
もしかすると、久しぶりに制服を着たことも相まって緊張していたのかもしれません。
なるべく周りを見て喋ることが出来ていたら、まだ良かったのですが……。
というより、よく考えずとも昼休みの図書室での出来事のせいで少し気がおかしくなっていたんでしょう。
スピーチ中にいつまたあの子が現れるかと思うと、気が気でなりませんでした。
しかし、そんな心配も杞憂に終わり、スピーチ中に彼女が現れることはありませんでした。
ただ、スピーチが終わって胸を撫で下ろそうにも、脳裏にあの妖精の姿がちらついては良くも悪くもドキドキしてしまいます。
考えてみれば、私を貶めようとしている可能性だってないわけではないかもしれません。
私の記憶の数割はそのように騙され、貶められた記憶なのですから。
そして、物語の妖精はいつだっていたずら好きで無邪気で邪悪なんですから。
懐に入れたレモンを握り、私は深く息を吐きました。
本村愛華の場合③
2020/05/01 up
2022/06/19 修正